ウラジーミル・ソローキン『青脂』を目前にして

 →未読の人むけに紹介を書いたよ(10/2/18)


 ロシア本国で昨年出たバージョンの『青脂』表紙。かわいい。

 もうすぐ発売される『早稲田文学』3号はおよそ半分がソローキン『青脂』の翻訳であるらしい(それでも全体の三分の一だとか) おそるべきその内容はこちらで紹介されている。これは読みたい。当方は最近読んだばかりの新参ファンなのだけれど、『青脂』の到来にあわせ、ロシア語の勉強という名目でちょっと調べてみた。
 さて、ソローキンの公式サイトhttp://www.srkn.ru/は2006年を最後に更新が途絶えている。サイトでは著作の批評や書評、インタビュー記事・音声も多数載っており、挿絵なんかも見られるし、少なからぬ作品を読むことができる。まるごと。トップから「テキスト」に飛ぶとリストがあり、『ロマン』も『青脂』も恐らく1冊まるまる、読めるようになっている。この太っ腹の理由は、ロシアの書籍が取り巻かれている状況にあるだろう。ロシアの書籍は、その多くがネットにアップされてしまう。もちろん違法ではあるのだろうが、共産主義の過去のためか、基本的にあらゆる本はネットで読めると考えていい。ちなみに中国も同様だ。よって自然と、古い本は積極的にオフィシャルサイトで内容を開放し、読んで気に入った読者が本を買うことを期待するという流れができる。中国・台湾の出版社でも、サイトで小説を連載してから本を刊行する仕組みはメジャーだ。インターネットを利用して読者層を獲得する、一つの作戦ではある。ところで公式トップのソローキンの写真、オッス兄貴と言いたくなる。メタルバンドに混ざっていてもおかしくないと思いませんか。

 さて、公式サイトをほったらかしてソローキンはどこで何をやっているのか。
 近年ロシアで立ち上がった、同名の雑誌を中心としたマルチメディアによるマルチカルチャー振興プロジェクト《Сноб.》*1。この雑誌に関係する文化人たちはウェブサイトに自分のアカウントを持ち、サイト内のブログを利用する。読者は時に、作家同士のコメントのやりとりを直接目にすることもできる。いわば、ネット上の会員制文化サロンだ。
 現在ソローキンはここで08年12月からブログを更新している。《Сноб.》を読むには半年/一年ごとに購読手続きをとる必要がある。購読方法は、与えられるIDを入れてログインしてウェブサイト上で読む/家へ雑誌を送ってもらうという2つのシステムから選べる。参加者のブログやニュース記事などはおおむね無料で閲覧できる。
 こちらは最新号のメインコンテンツ一覧。アートワークが美しく、大変好み(しかしクリックするとログイン画面へ飛んでしまう) ちゃんと確認していないが、初回ローディング時のみ、寒さで白く曇った窓をマウスポインタで拭き、コンテンツをのぞけるような粋な仕組みのようだ。この雑誌は毎号に小説が何本も載るわけではないが、この号にはソローキンのほか、ロベルト・ボラーニョの翻訳やボリス・アクーニンの作品も掲載されている。これも今号紹介のページ

*1:読みはSNOB。創立理念と雑誌最新号の案内のみ、英語でも読める。http://www.snob.ru/basement/abouttheproject