パジェット・パウエル“The Interrogative Mood: A Novel?”(2009)

 パジェット・パウエルはアメリカ南部の作家。宮脇孝雄氏が手がけた『エディスト物語』のほか、短篇2篇の翻訳があるそうだ。『地獄のコウモリ軍団』 (新潮クレスト・ブックス) でお馴染みのバリー・ハナに言わせれば「全米でも5本の指に入る作家」だという。
 さて、ちかごろ海外文学好きの間で、ついに邦訳が刊行されたことが話題になったジョルジュ・ペレック『煙滅』(2010, 水声社)はまさかの「い段全部抜き」小説である。一方、この“The Interrogative Mood”は、全篇にわたって疑問文オンリーなのだ。最初のほうをパラパラとめくったが、明確な筋があるわけではない。200ページ足らずとそもそも長篇にしては短い。というわけで、題もNovel?と疑問系である。
 質問は多様だ。「爪のあいだに砂は入っていますか?」「腕立て伏せは何回できますか?」なんぞと他愛がないものもある。一応、各段落の中では流れができている。たとえば「じょうずに自転車に乗れますか? 子供のとき、自転車の乗り方を学ぶのは簡単でしたか? 子供に自転車の乗り方を教える楽しみを味わったことがありますか?」などと。
 ふだん小説を読むとき我々は、文章を摂取して脳内で上映するのに徹する。いわばビデオプレーヤーになる。本によっては読む間に思索を巡らすこともなく、ひたすらストーリーを脳内で流し続けるだろう。ところがこの小説は、読者をビデオプレーヤーにさせておかない。質問を与えられれば、我々は反射的に答えを考えてしまう。つまり、パウエルは疑問文のみで本を構成することによって、読者をビデオプレーヤーから卓球プレーヤーに強制転職させることに成功したのだ。
 読書はけっして受動的な行動ではない。想像力がなければ成り立たないのだから。その事実をあらためて突きつけたのが、この実験小説なのではないか?

The Interrogative Mood: A Novel?

The Interrogative Mood: A Novel?

 160ページ程度と非常に短い。