本をお供に行きたいカフェ

 目覚まし時計をかけずに寝て起きたら午後2時だった。このままではあんまりな一日なので、気になっていた店をはしごすることに決める。夜行性なもので、夜更けにちょっと読書したり、書き物をするカフェバーを開拓しようとは前から考えていたのだ。
 連休中はささやかに贅沢するつもりでいたので計画を決行。 

  • 高円寺・アール座読書館

 公式:http://r-books.jugem.jp/
 漫画喫茶ならぬ読書喫茶とでも言えばいいだろうか。静かに利用することを前提としていて、植物や水槽で各テーブルが遮蔽された作りになっている。私が入店したときも、大半が一人の客でゆっくり本を読んでいた。アンティークも多いと思われる、レトロな調度が雰囲気ある。ちょっときしむ椅子や床も、古い建物にいる気分がしてよいものだ。厨房で湯を沸かす音と、水槽のポンプの水音のほかは殆ど音がない。
 フードはなく、お茶うけの焼き菓子が少々置いてあるだけ。そのかわり、茶はホットならば大概ポットに入ってくるので軽く3杯ほどいただける。大体600円前後だろうか。紅茶もコーヒーも、フレーバーがついたものが色々ある。チャイや中国茶などもあり、メニューにには親切にも「独特の味がします」「甘みが強いです」などの注釈が入っている。
 今回は蓮の紅茶を頼んでみた。名のごとく蓮の花の香りがついた飲み物だが、強烈な香りはしない。注文してから気がついたが、私はジャスミン茶はあまり得意ではなかった。以前にインドカレー屋で口直しに食用花の種をいただいた時も、まさに花を食んでいるような香りに閉口したものである。しかし、このお茶は非常に飲みやすかった。

 そしてこの店の特色は、壁面に本棚が並んでいること。もちろん自由に読んでいい。海外旅行のガイドブック、画集、絵本がある。様々な生き物の全身骨格写真集“Evolution”なんてのも。小説と漫画もある。このラインナップに、私が小学校から高校の間に親しんだ本が結構ふくまれていて嬉しくなった。椋鳩十小川未明。初期の諸星大二郎やら『ぼのぼの』。ボルヘス『幻獣辞典』、A・ビアス悪魔の辞典』、リンド・ウォード『狂人の太鼓』なんかもある。それから講談社ブルーバックスが『クォーク』をはじめとして数冊。
 アンソロジー『SFコンピュータ10の犯罪』(1987,パーソナルメディア)を数篇読み*1稲垣足穂の世界 タルホスコープ』(2007,コロナブックス)を読む。それから高橋源一郎『惑星P-13の秘密 二台の壊れたロボットのための愛と哀しみに満ちた世界文学』(1990,角川書店)! なかなか読む機会がなかったので出会いが嬉しく、流し読みだがほぼ読みきってしまった。架空の発明、職業、国、遊園地(名所)などが次々紹介される、大変私ごのみの本。氏の小説は全著作の三分の一を切るくらいしか読んでいないが、今のところマイベストに推していいくらい。秒速30万ペースでドストエフスキーを読む装置(読書スタイルに革命を起こしたが、多数の人命が失われる原因にもなった)とか、生き物を通貨にする(価値が高いほど生態系において上)とかホラ話が尽きず湧き出てくる。これを読めただけでも行った甲斐があったというものだ。
 内装→http://r-books.jugem.jp/?cid=4
 余談:読書喫茶といえば移転前の『オメガスイーツ』が思い出されるが、『オメガ』がアングラ、ゴス文化、エロスにより強い「乙女の隠れ家」だとすれば、『アール座』は逆にエロスから遠く少年的なイメージ。コレクションの中に科学の本があることもあって、個人的にはこちらに軍配を上げたい。
 あかね書房ハインライン『さまよう都市宇宙船』に目礼して店を出る。本やPCの持込みもOKとのこと。22時台まで営業している。我が家からはやや遠いが、またいつか行ってみたい。

  • 笹塚・Blue-T

 公式:http://www.blue-t.jp/
 いっぽう、こちらは音楽喫茶。アジア風と欧風の折衷である。ビジネスホテル「ホテル ラ・ガール ドゥ ラ・ヴィー新宿」の入り口脇にある。入り口脇の空間は以前は何に使われていたものか、長らく空いていたものだが、ある日の深夜、久々に通りかかったらなんと煌々と明かりが灯っていた。廃墟のようだったのが一変していたという、そのシチュエーションだけでワクワクしてしまった。天沢退二郎『光車よ、まわれ!』(ピュアフル文庫)に「図書館の夜間閲覧室」というのが出てくるが、ああいう夜更けの「非日常」っぽさを感じたのだ。こうやって発見があるのだから、夜の散歩はやめられない。
 というわけで、念願の初入店。ガラスで仕切られた一室にはグランドピアノがあり、片隅にある本棚には大量のピアノの楽譜、CD、『ピアノの森』『のだめカンタービレ』、中国に関する本などが並んでいる。ほぼ毎日、生演奏が聴ける(!)ということで、この晩も弾いている方の姿が見えた。

 ドライフルーツ入りのお茶(525円)と、夜食に「おまかせ甜点心3種盛り」(525円)を頼む。もともと中国茶をメインにした店で、値の張るものも含めてメニューには迷うほど種類がある。またエスプレッソマシーンも置いてあるし、ジュースもある。茶はポットで来る上、飲みきると「薄くはなりますが」とお湯のおかわりまでいただける。お猪口大のグラスでそれをちびちびやりながら、本を読んで点心を待つ。
 そして来たのが、ちゃんとした蒸し籠。開けると、単品でも頼めるサツマイモの蜜がけ、中国茶葉と蜂蜜の蒸しパン、それにドライフルーツを載せた蒸しパンが湯気を上げた。どれもやさしい甘さで美味なり。岩手産のものを中心に酒も出しているので、小さなカウンターには酒瓶と中国から来た干した植物色々の瓶が立ち並んでいる。それを眺めるのも面白い。
 内装→http://www.blue-t.jp/tennnaigazou.html
 広い道路の前ではあるが、ゆったりと静かな時間を過ごすことができた。おかげで引き続き読んでいた“The Other City”もはかどり、2章進んで、これを読むために買ったという部分まで行き着く。作者のノリノリ加減がすごい。(ということで、明日はこの話をしよう)
 この店はつまみも主食もハーフサイズで頼むことができるので、ちょっと腹に何かを入れたいときにも重宝するかもしれない。近隣の人がおやつや夜食を摂るのにいいと思う。ランチもやっている。
 乗り物で移動する間を除き、外で本を読む習慣はなかったが、たまの贅沢として本を読みつつ茶を飲むのも良いものだと思った。徒歩圏でもあることだし、ときどき通いたい。駅からはやや距離がある。笹塚駅前にはめったに見ないような本場の食材・食品を取り揃えた『台湾物産館』*2もあるので、続けて回ればちょっとした台湾旅行気分を味わうことができそうだ。

*1:さすがに古さを感じた。

*2:夏場は台湾カキ氷が食べられる。