ご当地ミステリ

 ボリス・アクーニンのファンドゥーリンものの8冊目の英訳が出る折、皆様いかがお過ごしでしょうか。
 Here On Earthというラジオ番組がある。ウィスコンシン公共放送が提供しており、国際的な相互理解を旨とするようだ。最近の放送分はネットでも聞ける。 これの8月5日の回世界のミステリというお題で、DETECTIVES BEYOND BORDERSというブログの主ピーター・ロゾフスキイと、最近出版されたばかりのインドノワール・アンソロジー『デリー・ノワール』を編集した人がゲストであった。主にブロガーのほうが、松本清張やケン・ブルーウン、アクーニンやヤスミナ・カドラ、フレッド・ヴァルガスについて思いつくままに紹介していく感じ。あと最近の北欧ミステリブームの話。インド系のアンソロジストのほうはとかく話が長かったが、一言でまとめればインドはこれから「来る」という熱い売り込みだった。聞き役の女性が海外ミステリについてあまり知識がない人らしく、揚げ足をとりがちで、聞いていて消化不良を起こしそうになる。途中までは寝ながら聞いたのだが……。
 ともあれ、Detectives Beyond Bordersはいいブログ。知ってよかった。ブログ主がトピックを設けて導入となる記事を書き、あとはコメント欄で読者たちが話し合いを繰り広げる形式で、最近は「マイケル・イネスをはじめとするアカデミックなミステリ」「SFミステリ」などの記事が面白かった。

 さて、アクーニンと北欧勢がそれなりに売れているようで、英語圏はいま翻訳ミステリ特需なのかもしれない。The Mammoth Bookは、すでに発表済みの短篇を40作くらいまとめた、コストパフォーマンスのよい傑作選シリーズである。(今年、ホームズパスティーシュの巻が原書房から出ている)

シャーロック・ホームズの大冒険 上

シャーロック・ホームズの大冒険 上

 その新刊は、ベスト・インターナショナル・クライムがテーマ。ノワール、スリラー、フーダニットまで世界各地を舞台にしたミステリ短篇を収録するという。収録が明らかになっている作家は、イアン・ランキン、ジョン・モーティマー、アクーニン、ジョルジョ・ファレッティ*1ジョー・ネスボ*2、ルース・レンデルにジェフリー・ディーヴァーと売れ筋を網羅したお買い得パックである。日本やキューバが舞台の作品も入っているようだ。ただし、このマンモス・ブックシリーズは作品数が多いためか、ネット上にもほとんど収録作情報が上がらない。一体それぞれの作者のどの作品が載っているのかわからず、よく歯がゆい思いをしている。もし収録作一覧をまとめているようなサイトをご存知の方がいれば、ぜひ教えていただきたい。
The Mammoth Book Best International Crime (Mammoth Books)

The Mammoth Book Best International Crime (Mammoth Books)

 一方の本邦では、講談社より島田荘司・選「アジア本格リーグ」が来月から刊行される予定のようだが、企画の経緯や内容がまだ全然あきらかにされていない。いずれ『メフィスト』などで小特集が組まれるのだろうか。とりあえず9月に出るのは台湾の人のとタイの人の。
 あれこれ検索しているうちに台湾の推理雑誌における島荘インタビューの要約・翻訳を発見した。個人の方のブログなのでリンクは自重する。そちらの記事によれば、各国のミステリ状況を調べるうちに氏は、タイにはまったくと言っていいほど本格の概念がないこと、インドには本格ミステリを書く女流作家がいることなどに気づいたという。……あれ、ほんとに「インドはじまったな」か?
 今後、ハードSFや本格ミステリを読みたい人は、インドの新人を探すとロジカルな良作と出会えるかもしれない。私も読みたい本を色々見つけてしまった。

*1:『僕は、殺す』(文春文庫)

*2:コマドリの賭け』(ランダムハウス講談社