井上雅彦 編『怪物團(異形コレクション)』(光文社文庫)
ひさびさに真っ向から怪物テーマ。と見せかけて、鬼畜博覧会だった巻。牧野修・飴村行・友成純一・平山夢明・真藤順丈の5氏が続く後半部分は、ベテランと新鋭のスーパー鬼畜パレードとでもいうべきドログチャシーンの連続だ。
好みだったものをいくつか挙げてみる。私はどうも怪物とのロマンスに弱いらしい。グロが読めないわけではないが、現実的な舞台設定でひたすらスプラッタという系統はどうも趣味ではないのだ。うっすらネタバレしているので注意。
- 飛鳥部勝則「洞窟」
じっさい冒頭でラヴクラフトの名も出てくるが、その作品を思い出す忌まわしい血の話。いい意味で古めかしく土俗的で、官能的。
- 井上雅彦「碧い花屋敷」
ブロブもの。美少女にとりこまれる・美少女のためなら世界を捨てるというのはやっぱりロマンだと思う。
余談だが、Nitro+は肉々しい触手クリーチャーとの恋という、言ってみれば本作と同様の趣向でいわゆるHENTAIゲームをこしらえた*1。その姉妹ブランドであるNitro Chiralは、主人公たちが肉塊のように溶け崩れた怪物に変貌する
BLゲーム*2を産んだ。ということは、異類婚もののバリエーションとして意外と需要があるのか、ブロブな嫁。
- 皆川博子「夕日が沈む」
たいへん短いが、安心のクオリティ。水槽で飼われる自律した「指」や、恋したお兄様の死体を紙芝居屋の舞台として貰い受けるお嬢様が登場する。理想の耽美小説。
ほら、案の定ロマンスぞろいだ。
以下の2篇は性癖とマッチしてはいないものの、共に好きな作家であるし、独特の個性があるので言及したいもの。
- 上田早夕里「夢見る葦笛」
旬のボーカロイドから発想されたネタだろうか。怪奇特撮映画ふうの映像が目に浮ぶ作品である。
主人公の響子への執着心や、ラストで突きつけられる主人公こそが異常ではないかという疑念が、物語のまとまりに貢献している。この作家は本当に小説の基本がうまい。
ところでこの話、怪物の怖さより、一致団結した無垢な善意が狂信に見えてしまう怖さのほうが目立っている気がする。小川一水「グラスハートが割れないように」やイーガン「銀炎」を連想したのは私だけではないはずだ。(ただし後者の恐怖も、主人公こそが怪物というラストの収束で回収されるので、むしろイソアははなからブラフとして用意された怪物キャラクターなのかも)
- 牧野修「沈む子供」
天罰をくらうパターン。罪によってキャラクターが徹底的に無残な目に遭う展開は、牧野氏が得意とするところ。しかし、一般的な因果応報モノとは一味ちがう。主人公サイドが罰を与えるポジションのこともあるし*3、「ヨブ式」のように、前提となる罪・因果が不条理なこともあるのが牧野流。今回は、オシオキされるのが報いを受けて当然の人物であるのだが、それにしてもむごい。
*昨日、上田氏の短篇集『魚舟・獣舟』(光文社文庫)が書店で平積みになっていたので、奥付を確認したらば8/20に4刷が出たのであった。めでたや。絶望的な世界を、変に煽ることなく穏やかに描いて終わるところがどうにも好み。ファンタジックな存在と、その設定に対する論理的な解釈が共存している話が多いところも。はやく、おかわりがほしい。