ルー・アンダース編“Sideways In Crime”(Solaris, 2008)

Sideways In Crime

Sideways In Crime

 昨年刊行された、改変歴史世界を舞台にしたミステリ限定アンソロジー。たとえば、中国人がアステカに火薬を伝えたため、北米までがアステカ神話を信奉させられている世界の話が収録されている。好きな作家はあまり参加していないのだが、とりあえず買っておいた本。本年度、改変歴史小説を対象にしたSidewise賞の短篇部門最終候補では、なんと本書から3篇もがノミネートした。6分の3なのでちょうど半分を占めたわけだ。

 さて、惜しくも受賞を逃した“Running the Snake”はケイジ・ベーカーの作品。ケルトの民が英国を支配し、大陸はシーザーの末裔が治めるという設定を導入している。史実では60年ごろにケルト人イケニ族を治めていたはずの女王ブーディカが、BritainならぬBrithanの、TudorならぬTwdwr朝を統治している架空の17世紀が舞台となる。女王の娘婿が怪死した事件を、腹話術師が蛇を遣って神を演ずるいかさまに、脚本を書き、元ドルイドの医学知識を提供して片棒を担いでいた若者が解き明かす。彼の名はウィル・シャクスパーといった。
 どうにも設定だけで勝負している感が否めない。謎が小粒で面白みもない。決闘で次代の女王が決まる制度のせいで、シャクスパーの元ネタである劇作家の作品のように親族関係がドロドロしているという二重構造が楽しくはある。まあ、ごく短い短篇だからこそやれた話だろう。

 まだ読み終わってはいないが、ミステリ部分が弱いのが本書の特徴のようで、謎解きはどれもほんのおまけ程度。私が読みたいのは『日本殺人事件』や『魔術師が多すぎる』タイプの小説だったのでちょっと肩透かし。
 本書収録の他の短篇も、今後いくつか感想を上げる予定だ。