Xatafi-Cyberdark賞一覧
スペインでFT・SF・ホラーのジャンル啓蒙のために設立された同賞は、昨年で4回目を迎えた。対象となるのは08年の作品。ネビュラや日本SF大賞のような選考委員制の賞である。以前、Twitterではちらっと書いたのだが詳しく調べたので貼っておく。
原語表記はこちら(http://tienda.cyberdark.net/premio-xatafi-iv.php)で確認していただきたい。なお私のスペイン語は小学1年生くらいのレベルだと思うので、誤訳や発音の正式表記などについてはどしどしご指摘ください。
長篇(単行本)部門
- 受賞:フェリックス・J・パルマ(1968-)『時の地図(仮)』
1896年ロンドンを中心に、3部に分かれた時間旅行ものSF長篇。
1部:切り裂きジャックに殺された愛する女を救うため、タイムマシンで歴史改変を試みようとする若き学者の挑戦。
2部:本来ありうべからざる、ヴィクトリア朝の女と未来の男の邂逅とロマンス。コニー・ウィリス『犬は勘定に入れません』を思い出させられるという評もある、めまぐるしいパート。
3部:タイムマシンの作者H・G・ウェルズ自身がとある事件を解決することになる、恐怖と謎に満ちたパート。
登場するのはブラム・ストーカー、エレファントマン、切り裂きジャック等。暗き19世紀のロンドンと、時間旅行/平行世界の分岐がテーマの歴史ファンタジー/SF。
案の定、アラン・ムーア『フロム・ヘル』やカルロス・ルイス・サフォン『風の影』と比較されることの多い本だという。なんと作者サイトによれば、翻訳出版の見込みがある8カ国のうちに日本が入っている! どこの版元かわからないが、責任をもって早いところ出してほしいものである。
- 受賞:ホン・ビルバオ(1972-)『蝿の兄弟(仮)』
同時受賞作。幸せな結婚、閑静な住宅街のマイホーム、念願の第一子。すべてが順調だったはずの主人公の暮らしは、予期せぬ兄弟の襲来によって一変する。ある日兄弟の姿が消え、代わりに我が家に無数の蝿が出現したのだ!
兄弟の名前がGregoな時点でカフカへのオマージュは明白だが、しかしこのネタで長篇1冊をどう維持するのか。「デヴィッド・リンチを想起させるスリラーであり、奇想の小説であり、家族の問題をテーマとした文学である処女長篇」だそうだ。
最終候補
- イスマエル・マルティネス・ビウルン(1972-)『紅い魂、黒い影(仮)』
06年にクトゥルー神話っぽい要素のあるホラー歴史ファンタジー“Infierno nevado”(『雪地獄』)でデビューした新人の2作目。粗筋をちらっとみたが、これは実際に読んでみないと正確に内容が書けないタイプだと思う。ホラー・サスペンスっぽい。
- マルク・R・ソト(1976-)『異なった男(仮)』
ホラー短篇集。これまた新人(2冊目の本)である。キングが好きとか。本人のサイトによれば表題作は今秋以降、EQMMに翻訳が載りそうだという(07年にも1度、同誌に翻訳を掲載されている)
好きな作家はキング、ハイスミス、チャンドラー、シェイクスピア、デュマ、コルタサル等。ところで短篇集『異なった男』のうち1篇のタイトルが“Sushi”なんだが、これはやはり日本ネタか。
短篇部門
- 受賞:マルク・R・ソト「蚊(仮)」(短篇集『異なった男』収録)
最終候補
- サンティアゴ・エヒメノ(1973-)「いちばん甘い」
エヒメノ編の短篇集『ナイフで遊ぶ赤ん坊』収録。著者はホラー/SF/ファンタジー作家。収録作に“Origami”ってのが入っているんだが……日本語もメジャーになったものである。
- マルク・R・ソト「異なった男」
短篇集『異なった男』収録。結論:ソトが一騎当千すぎる。選者の趣味にもよるだろうが、なぜかFT・SFよりホラーが強いよう。
翻訳長篇部門
- 受賞:マイケル・シェイボン『ユダヤ警官同盟』
最終候補
- J・G・バラード『ウォー・フィーバー―戦争熱』
- 村上春樹『めくらやなぎと眠る女』
- ダン・シモンズ『ザ・テラー 極北の恐怖』
- ロバート・チャールズ・ウィルスン『時間封鎖』
翻訳短篇部門
結果的にバラードVS日本人作家である。
出版部門
- 受賞:フランシスコ・アレジャーノの《迷宮図書館》
迷宮図書館というのはレーベル名。C・A・スミス、ヴァン・ヴォークト、エドモンド・ハミルトン、シーベリー・クイン、R・E・ハワードなんかをどしどし出している。マドリッドの東京創元社と呼びたい。
最終候補
- モンナドーリ(版元名)
J・G・バラード自伝『人生の奇跡(仮)』翻訳出版に対して。
- ダヴィド・ロアス&アナ・カサス『隠されたリアル:20世紀スペイン短篇小説傑作選(仮)』
若い読者と大人のための古典小説絵入り出版に対して。
……ってなんだろうと思って調べてみたら、スペイン語圏の作家(フリオ・コルタサル、オラシオ・キローガ、あと南米の詩人等も)の作品を中心に、小説や詩に挿絵をつけて出版しているのだ。日本で言えば、澁澤龍彦ホラー・ドラコニア少女小説集成などと同じ発想である。どれもセンスが素晴らしい。河出から『まっくら、奇妙にしずか』が出ているアイナール トゥルコウスキィの本が。翻訳としてジャック・ロンドン、ポオ、ラヴクラフト、ホフマン、マイリンク、フェルナンド・ペソア、カフカetc.も。おまけに去年『世界名探偵倶楽部』で私の心をガッチリつかんだパブロ・デ・サンティスまで!
私の御託はいいから、早くこのサイト(http://librosdelzorrorojo2.blogspot.com/)をたどって中身を見るんだ!
- Tusquets社
クリスティナ・フェルナンデス・クバスの諸作出版に対して。近年、文芸賞を複数獲得した女流作家の作品を80年代から出し続けてきた功績をたたえて。